「住まいから寒さ・暑さを取り除く」(北海道大学名誉教授 荒谷昇先生著)
は我々温熱設計従事者にとってのバイブルです。
住宅の温熱環境を考えるとき、何が必要で何が大事なことなのかといった本質的なことを
深く、且つわかりやすく、書いてあります。
道に迷いそうな時、繰り返し目を通しては初心を思い出させてくれるとても大事な本です。
内容をできるだけご紹介したいと思います。
1 採暖と暖房
もし、暖かくしたいと望んでいるなら
あなたは暖房を知らないのかもしれません。
いきなり意味深で挑戦的なト書きから入ります。
暖房を知らないの?どういうこと?ってなりますね。
ここでは、暖房の本質をわかりやすく説いています。
「採暖とは、寒さの中にあって暖かさを感ずるところに意義がありますから、
暖かさの源になる採暖器具は最も大切な存在です。」
「一方、暖房にあっては、ある空間の温度を保っておくことが目的ですから、
内と外の区別(断熱)は最も大切な条件で、熱を供給する暖房器具は
必要最小限であることが望ましく〜 」
とあり、冒頭から採暖と暖房はまるっきり違うものであるという前提で著書は進んでいきます。
2 気密化住宅の換気
気密化とは、密閉することではなく
開放するための手段です。
通風や通気による湿気の開放性を求めると、冬の寒さを防ぐことは困難になります。
日本の伝統的な建築や生活習慣では建物の中に入り込む寒さを当然のものとしながら
厚着をし、いろりやこたつや火鉢などで体を暖める“採暖”の生活を定着させてきました。
その寒さを防ぐ最も手っ取り早い方法は隙間風を防ぐ気密化ですが、気密化が進んでくると、
湿潤の風土に生まれた構法や採暖常識が通用しなくなり、混乱や矛盾が起こってきます。
これは今にも通じる普遍的な事柄ですね。
気密化の目的は、「室内から寒さを取り除くこと」と続きます。
「エネルギーの消費量を増やさずに全体の温度を保ち、結露の心配をなくすには思い切った断熱と気密が必要です。」その上で「換気経路を明確化」し、「内部結露防止のための外への開放をより有効、確実にするための手段」である、と。
この辺は部分抜粋が少々危険です。是非、著書を実際にご覧いただきたいところです。
3 省エネルギーから生エネルギーへ
地域や個人が持っている良さを知り、それを生かすには独自の価値判断と独自の工夫が必要で、それを伝える情報は極端に不足しています。
自然と自然エネルギーのすばらしさに気づき、それを大切に思う心と生活を発見することは、省エネルギーに勝る“地球にやさしい生活”につながるはずです。
この章では、熱容量・取得熱再利用暖房、太陽熱利用、パッシブ換気などについて触れられています。
2003年頃の執筆であることを考えると、すごい先見の明と思ったりするのですが、
実は今も昔も変わらない普遍的な事柄を教えてくださっているにすぎません。
そして先生は、これらの事柄を証明する様に1970年代にご自宅を建築されています。
僕も何度か札幌のご自宅を訪れましたが、やはり普遍的で考え抜かれた深い思考を感じ、また
快適この上ない、やさしさで包み込まれる様な住宅なのです。
<その2>に続く。